72を切りたい!ゴルフを愛するアマチュア中年オヤジの「ゴルフ本」レビュー

~ゴルフレッスン本の感想、ゴルフあれこれ、その他いろいろ。気の向くままに~

陳清波プロ

陳清波プロ <M系> オススメ度:★★

①陳清波の近代ゴルフ(著者:陳清波 1961年 報知新聞社

②続近代ゴルフ(著者:陳清波 1961年 報知新聞社

 ③陳清波「いちばん美しいゴルフの基本」(著者・陳清波 ゴルフダイジェスト社 2008年)

 

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  1931年、台湾のお生まれ、1960年代から1970年代にその名を轟かせた往年のスーパースター、伝説のダウンブロー、私のような若い世代でもコアなゴルフファンならその名を知らぬ者はないほどの先生です。長く日本でご活躍、一時代を築かれ、2015年には日本プロゴルフ殿堂(レジェンド部門)入りも果たされています。現在は、日本国籍を取得しておられます。1963年のマスターズにも出場されています。

 

 さて、①と②ですが、ちょっとこの2冊については・・・現在では入手困難かも知れません。私は運よくamazonさんで売られていた古本を手に入れることができたのですが、今後はどうかな・・・難しいかも知れません。ちょっとこの2冊については、大金を積まれても(?)手放す気になれないですね(笑)。それほどに、貴重な本だと思っています。③は比較的新しい本ですから、手に入れやすいのではないでしょうか。

 

 ①と②は、後に書かれた②の方が、若干洗練されている感じですが、内容的にはほぼ同じ。私の手元に届いた時点でけっこうボロボロで、傷みも激しかったのですが、まあ当然ですよね。1961年といえば、私が生まれる14年も前ですから(あ、私は1975年の生まれです)。そもそも、そんな年代物がよく残っていたと思いますし、運よく手に入れて読むことができたことに感謝です。今みたいにDTP印刷などなかった時代で、まさに一文字一文字「写植」の時代だったのでしょうか。ページを繰ると、圧倒的なレトロ感が漂ってきます。内容は思いっきり硬派なレッスン本なのですが、読んでいると、今は遠き昭和の時代へタイムスリップしてしまったかのような、ちょっとロマンチックな雰囲気を味わえる本です。

 

 陳先生といえば、「スクエア・グリップ」「ダウンブロー」という2つの大きなキーワードがあります。両者とも、陳先生の代名詞といってよいでしょう。

 

 私が思うに、陳先生の美しいスイングはM系もM系、「超M系」です。まるでハイスペックの、フェラーリみたいなバリバリのスポーツカーです。乗りこなすには相当の努力で正確なテクニックを身につけなければいけないクルマのようです。

 

 ①②では、陳先生のスイング理論が精緻に展開されています。ものすごく細かく、ていねいに書かれています。その時代のゴルフレッスン本の出版事情は私にはわかりませんが、もしかすると、①と②は日本において、一般ゴルファー向けに書かれた「ゴルフレッスン本」の実質的な先駆けといった位置づけになるのかもしれません。また、随所で伝説のプレーヤー、ベン・ホーガン先生(アメリカ)についての記述が盛り込まれているところも面白いです。先生のスイングは「なおよく外国選手から『君のスイングはホーガンに似ている』といわれる。私自身もホーガンから多くのものを学ぶように心がけている」(①、17ページ)、「私のダウン・スイングのコツはホーガンと同じだ」(②、55ページ)とあるとおり、基本的にホーガン先生のスイング理論と同じです。ただ、陳先生のトップはホーガン先生ほどフラットではなく、またホーガン先生はトップで右ヒジを身体から離さないのに対し、陳先生は「右ヒジは体から離してあげた方が、バック・スイングで左ヒジが伸び、スイングの遠心力を十分に活用できる」(①、53ページ)とおっしゃっていますので、ホーガン先生のスイングをただ模倣されているわけではありません。ホーガン先生をモデルとして尊敬しつつ、ご自身のオリジナル・スイングを確立されていったのでしょう。

 

 まず「スクエア・グリップ」ですが、①②の書かれた時代にはまだスクエア・グリップが主流だったためか、握り方について詳細な説明があるだけです。しかし、後年になって「フック・グリップ」(今でいう「ストロング・グリップ」)が台頭してくると、陳先生はフック・グリップ(ストロング・グリップ)を明確に否定しておられます(③、248ページ)。私がゴルフを始めた2010年ごろは、まさにストロング・グリップの最盛期で、私も最初、ストロング・グリップで教わりました。現在の私が練習している谷将貴先生の理論でも「ストロング・グリップ」が採用されています。

 

 しかし、最近では再び「スクエア・グリップ」を推奨する先生が増えてきているように思います。私が読んだ中では、中井学先生や桑田泉先生がスクエア・グリップを推奨されています。中井先生も桑田先生も「アームローテーション」「ヘッドターン」を重要視されますので、それを自然と行うにはグリップはスクエアでなければならない、ということなのでしょう。

 

 陳先生はグリップもスクエア、スタンスもスクエア。もう全部スクエア(笑)。きっと、曲がったことが大嫌いな、一直線の情熱家でいらっしゃっるんだろうなと思います。

 

 次に「ダウンブロー」です。これこそまさに、陳先生の代名詞。いかなるライでもクリーンにボールをヒットできる最高のショットというのが、陳先生のお考えです。ダウンブローに対するものとして「サイドブロー」(今でいう「払い打ち」のこと)を挙げていますが、サイドブローについては否定的なお考えのようです。

 

 陳先生のダウンブローのコツは、トップから切り返すところで「右手はトップ・スイングのときよりもさらに外側へ、スイングの弧を描くように、その位置から地面へ真下に引き下ろされる」(①、54ページ)と説明されています。これ、私も練習場でやってみましたが、難しいです。いや、本当に難しい。この動作とともに必須の動きとして説明されているのが「シッティング・ダウン」「ニー・アクション」という動作。椅子に腰かけようとする寸前の動作のように腰を若干落とし(私の理解では、ほんの気持ちだけ左下に落とす感じ)、右ヒザを左へ送る動作でもって、ボールをヒットするパンチ力をため込むのだそうです。

 

 トップの位置から右手を真下に引き下ろしつつ、腰はシッティング・ダウンの形をとり、ニー・アクションで右ひざを左に送る。これらの総合力によって思いっきりボールをぶっ叩くわけです。これらの複雑な動作をほぼ同時に行うのですから、私が陳先生の理論を「超M系」とするのも、ご理解いただけるのではないでしょうか(笑)。

 

 その後も右手を飛球線に沿って返しながら上げていく動作(右手の「ターン・アップ」)も必須。フォロースルーの限界点からさらにもう一息、左肩を回して大きなフィニッシュを取ることも必須。実にやることが多いんです(笑)。

 

 とにかく①②ともに、細かすぎるほど細かく陳先生のスイング理論が展開されているので、もし手に入るなら一度はお読みいただきたい名著だと、私は思っています。

 

陳清波いちばん美しいゴルフの基本。 (ゴルフダイジェスト新書)

 ③はレッスン本というより、陳先生の自伝がメインの一冊です。二部構成で、「第一部 風のゴルファー 陳清波」(ロマンチックなタイトルがとても好きです)、「第二部 スクェアグリップのための『超訳 近代ゴルフ』、付録として「いちばん美しいスウィング写真 ドライバー編・アイアン編」が最後にあります。

 

 第一部は、陳先生が1957年に来日し、日本で本格的にゴルフを始めてから1963年のマスターズ出場というクライマックスまで、陳先生の選手人生が物語風に描かれています。外国である台湾から来日され、異国で戸惑いながらも確実に道を切り開いていく先生の努力が当時の時代背景を含めて鮮やかに記されており、ゴルフファンでなくとも勉強になる内容だと思います。楽しく読みました。

 

 第二部は、先述した現在は入手困難と思われる①②の「抄訳本」という感じです。①②のエッセンスが小さな紙幅の中に詰め込まれているので、①②が手に入らなくても、陳先生のスイング理論をしっかり学ぶことができます。むしろ、①②より短くて読みやすい分、参考にしやすいかも知れません。ここで改めて陳先生は「スクェアグリップ」の優位性を強調されており、「アメリカで大流行したフックグリップは、変則スウィングと呼ばれるプレーヤーを多く生んだ」「現在の日本では、その影響でフックグリップで握る若手プロゴルファーが多く、そのため『スクェアグリップは古い理論で、フックは新しい』などといわれることがあるが、グリップに古いも新しいもない、と私は思う」「スクェアとフック、どちらが理にかなっているか。私は断然、スクェアグリップであると思う。理にかなっているからどこにもムダがなく、美しくバランスよく振れるのである」(③、248ページ~249ページ)と、多少ムキになって(?)フックグリップを否定しておられるのが、ちょっと楽しかったです(笑)。

 

 私が思うに、現在50歳代前半くらいまでのプロゴルファーは、多かれ少なかれ、陳先生の影響を受けているのではないでしょうか。代表格は湯原信光プロ(1957年生まれ)で、湯原プロのスイング論を読んでいると陳先生の影響を強く受けていることを感じます。また、少し若手で深堀圭一郎プロ(1968年生まれ)のスイングは、陳先生の理論にさらに現代的な理論を取り入れた感じに思えます。「クラブは上げて下すだけ。そこに体の回転が加わってゴルフのスウィングはできあがる」という趣旨の説明をするプロの方の理論(私の区分では「M系」理論)には、多かれ少なかれ、陳先生が築きあげた理論が入っているように思います。

 

 面白い本なのですが、現代においては、あくまでコアなゴルフファン向けといえます。ただ、中井学先生や桑田泉先生の理論で勉強されている方は、両先生が採用されている「スクェア・グリップ」の真髄を学ぶためにも、読んで損はないと思います。