72を切りたい!ゴルフを愛するアマチュア中年オヤジの「ゴルフ本」レビュー

~ゴルフレッスン本の感想、ゴルフあれこれ、その他いろいろ。気の向くままに~

マイケル・ベネット/アンディ・プラマー氏

マイケル・ベネット/アンディ・プラマー氏 <系統不明> オススメ度:ー

 

①スタック&チルト ゴルフスウィング(著者:マイケル・ベネット/アンディ・プラマー 訳者:マーシャ・クラッカワー 技術監修:江連忠 ゴルフダイジェスト社 2012年)

 

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 伝説的なレッスン書「ザ・ゴルフィング・マシン」に強い影響を受け、ゴルフスウィング理論の体系化に専念するようになったという、多数のPGAツアープレーヤーを指導してきた実績のある先生方ということです。それ以上のことは、私もよく知りません。

 

 奥付けをみると、本書は2012年7月に1刷、わずか2か月後の2012年9月には9刷まで行っていますので、けっこう売れた本なのだと思います(各版の刷り部数にもよりますが、2か月で9刷りというのは、けっこう出ているな、という印象です)。

 

 一言でいうと、「ザ・学術体系書」(笑)。ベネット先生とプラマー先生が、ご自身の長年の研究成果を丹念にまとめ上げた一冊という感じの本です。

 とはいえ、私の感想では、正直なところ、ベン・ホーガン先生やボビー・ジョーンズ先生の著作のような格調の高さはなく(原文がそうなのか、クラッカワー先生の意図的な訳出なのかはわかりませんが)、内容の充実度のわりには、読んでいてそれほど面白くない本でした。

 

 本書が依拠するのは、「誰にでも共通する幾何学的原理」(まえがき、6ページ)です。幾何学や物理法則はすべての人に当てはまります」(同、6ページ)、「科学的な法則をスウィングに当てはめることで、ひとつの結論にたどり着きました」(同、7ページ)「ゴルファーはひとりひとり違うのだから、それぞれに合ったスウィングが必要だという主張を耳にします。しかし、私たちはこれには同意できません。なぜなら、幾何や物理の法則は共通であり、すべてのゴルファーに対して平等だからです」(Part-1「ゴルフの基本とは」 11ページ)とあるとおり、「スタック&チルト」という理論は、自然法則には誰にも逆らえない、すなわち自然法則に則ったスウィングを実行できれば、ボールはコントロールできるのだという発想に基づいて構築されているものです。

 

 本書が推奨するのは、本書が出版されたころ、いろいろなところで注目された「左一軸」のスウィングです。「アドレスからインパクトまでボールの真上に重心位置をキープすることで、常に狂いのないインパクトを実現することができる」というのが基本的な考え方であり、そのための方法論が精緻に展開されています。

 

 しかし、本書で示された理論がその時点で「新しいもの」であったかといえば、そうではないようです。本書も「まえがき」で、「本書を読み進めるうちに気づくことですが、『スタック&チルト』の大部分は決して新しいものではありません」(7ページ)と明示していますし、「この本が新しいのは、『本当の基本』を提示していることと、それが実際のスウィングではどのように機能しているかを説明しているところなのです」(7ページ)ともあります。

 

 本書は、私の理解では「トッププレーヤーに共通する要素」を抜き出し、整理して、それらの要素を「組み合わせ」て「体重(重心)をセンターにキープしたまま実行する」ということを言っているに過ぎない感じです。いわば、上手な人の「公約数」を抜き出して並べただけ、そんな印象を持っています。

 ですので、「スウィング中、体重をセンターにキープする」ために「左軸」を取るという点が唯一のオリジナルで、あとは公約数を並べただけ、という感じです。そのため、正直に言えば、本書で提示されているのは「理論」なのか?という疑問も持っています。

 

 本書が微妙なのは、妙に説得力が強いことです。それもそのはずで、本書は前提として「幾何や物理の法則」を全面的に打ち出しています。また、要するにトッププレーヤーの「公約数」を並べただけですから、それが間違いのないものであるのは当然です。

 したがって、読者にとってはそれらは疑いようのないものであり、だから本書と同じことをすれば自分も(数々のトッププレーヤーと同じように)正確にボールをヒットできるようになるという「幻想」を抱かせるという、私が考える「レッスン書として最大の誤り」を犯していると思います。

 しかも、「スタック&チルトスウィングをシンプルに表現するなら、これまでより簡単にボールを打つメカニズム、ということになります」(7ページ)と、あたかも簡単にボールが打てるようになるかのように高らかに宣言していますが、私は疑問です。

 

 まず、そもそも本書が並べ立てている「公約数」は、往年の伝説的プレーヤー、ベン・ホーガン氏やサム・スニード氏、最近の若いプレーヤーでもセルヒオ・ガルシア選手など、まさに「スーパースター」の数々から抜き出したもので、それ自体が私のような普通のアマチュアには真似できないものであることです。

 

 次に、幾何や物理の法則(自然法則)を全面的に出してくる本書は、要するに「人間よ、機械となれ」と言っているのと同じです。あたかも、プレーヤー自身が伝説的なレッスン書「ザ・ゴルフィング・マシン」に描かれている「マシン」になれと言っているようなもの(そもそも、著者のお二方がこの一冊に心酔されていると思われるので、それは当然かも知れませんが)、ゴルフクラブのメーカーさんが性能テストなどで使うスウィングマシーンになれと言っているようなもの。

 

 無理がありますよ。われわれは、人間なんだから(笑)

 

 「なんか今日はこのブログの管理人のオッサン、妙に批判的じゃね?」と思われた方いらっしゃるかも知れませんが。そうです。私は極めて本書に批判的です(笑)

 

 本書は、プロ向け、少なくともアマチュアのトップエリート向けの本だと思います(もしくは「ゴルフスウィングの『科学者』B・デシャンボー選手)。そのようなレベルの方々であれば、本書から得るものもあるのかも知れません。そのような本が、いかにも「誰でも簡単に打てるようになりますよ」という顔をして、悩めるアマチュアゴルファーに対して売られているというのが……私には疑問なわけです。

 

 私個人の感想では、私のようなレベルのアマチュアゴルファーが本書を読んで、書かれていることを実行した場合、最も深刻なダメージを受けるのは、本書が「円軌道」を強調しているところだと思います。テークバック後直ちに手はインサイドに引き、インパクト後は直ちにインサイドへ振りぬく、いわゆる「in to in」をすごく強調しているため、安易にこれを真似ようとすると、一瞬でスウィングは崩壊すると思います。特に、前にこのレビューでも紹介した三觜喜一先生が推奨しておられるような「直線イメージ」でスイングされている方には、致命的なダメージを与えると思います。わが国の伝説のバスケ漫画の名セリフじゃないですが、「ひとつ教えといてやるぜ、人間はコンパスじゃねぇ」って感じです(笑)。

 コンパスの針を立てるように重心を一点に留めて、正確な円軌道を描いてみせる、なんていう芸当は、少なくとも下手な私にはできない。だいたい物理法則と言うけれど、円軌道だったらインパクトは円周上のたった1点しかないが、直線軌道ならその直線上にある無数の点が、インパクトの一点に連なるだろうにと。私は数学や物理には弱いですが、そんな印象は持ちました。

 

 「管理人のオッサン、何で今回はそんなにキレてんの?」

 

 ……。ごめんなさい(泣)

 

 私が、本書のスイングを安易に真似たため、少なくとも2年間は棒に振った「被害者」だからです(笑)。

 

 もちろんそれは冗談で、私が本書の内容を理解して実行できるだけの能力を持たないというだけですけども。

 

 私の場合は、過度に手をインサイドに引くようになり、そして過度にインサイドに振り抜くようになりました。その結果、私の技量では「円周上のたった1点」を捉えることはできず、まったくボールが打てなくなりました。あまりにも危険な球しか出なくなり、一時期、コースに出るのすら嫌になったほどです。安易な気持ちで手に取ったのが間違いの、私にとっては「暗黒の一冊」でした(笑)。

 

 レッスン本というのは、ゴルフを愛する方々が、少しでも上手になりたい、いいボールを打ちたいという、大きな期待を込めて買うものだと思います。だから、「本来は難しいことが、カンタンに説明されている」というのが、私がレッスン本に求める理想です。しかし本書はその逆で、「本来難しいことが、カンタンであるかのように書かれている」というように感じて、罪深い一冊だと思います。

 

 あくまで個人的にではありますが、本書はオススメできません。少なくとも私と同じレベルでゴルフを楽しんでおられる方は、手に取られない方がよろしいかと思います。だから、Amazonさんのリンクも、この記事には貼りません(笑)。